IT融合による新たな産業の創出に向けて(4)


「日本の産業に活を入れるツールとしてITを使い回す」
経済産業省商務情報政策局情報処理振興課長 高橋淳氏


ITの活用だけでオランダの農業が強くなっているわけではありません。作物の選択的集中とか、栽培施設の大規模化といった要素も大きく効いているわけであります。さらにはこういったことを支えるための研究開発拠点も戦略的に作った。こういうこともあるわけでありますけれど、それらに加えてどうやってITを使っていくのか、そのITを使っていく上でのポイントは2つ。1つはまずデータベースを作る、ということであります。どういうタイミングで、どういうような要素がコントロールされると上手くいくのか、いかないのか、という莫大なデータベースがないとまずいです。それからもう1つはデータベースに基づいて実際に制御を行う制御技術。データベースの構築と制御の2つができるとですね農業については相当、生産性の向上の点からインパクトが大きいということであります。それでは日本はどうなっているんだろうということでございます。日本ではですね、農業にはいろんな制約がございます。ですので新規のプレーヤーがなかなか入ってこられないということがあって、新規のプレーヤーが入ってこられないとなかなかこういったITを活用してというようなところにどうしても踏み込めないというのが多いわけでありますが、そういった中でもこのままじゃいけないよねということで、このままじゃいけないというのは今までの農業というのは農家の方の勘、手作業の世界なわけですね。格言みたいな、あそこの山からこんな風が吹いてきたら農作業しなければいけないみたいな、何十年、何百年と語り伝えられてきた民間伝承みたいな世界があって、それに農業生活何十年という人が格言みたいなものに自分の経験をプラスして、「あっ、このタイミングでこういうことをしたら上手くいくんじゃないか」、そういう世界が農家の方には確立してあるわけであります。

今、農業従事者の方の平均年齢は65歳になろうかとしていると聞いております。そうなってくると今、言ったようなノウハウあるいは勘といったものは今から10年、15年経つと失われてしまう可能性があるんです。それではもう日本の農業というものはたちいかなくなってしまうわけですので、今まで伝承されてきたもの、あるいは勘とされてきたものをちゃんとデータベース化しようじゃないか、ということは考えておかなければならないという農家の方はおられます。あるいは果実堂さんというバイオベンチャーから農業に参入した会社があるのですが、この会社はもっと思い切ったことをやっていて、彼らはベビーリーフしか作らないんです。なんでベビーリーフしか作らないのかというと、ベビーリーフというのは種をまいてからできるまでが上手くいくと3週間くらいなんですね。そうすると1年間に10回とか、12回とか回せるわけです。さっき申し上げたデータベースを作るためにものすごく適した作物なんですね。1年に1回しか出来ない作物だとデータベースも1年に1回増えるだけですけど、1年に12回回せれば12倍のデータがとれる。それによってトライ・アンド・エラーで、こんなことをしたらいい、こんなことをしたらダメなんだというデータを、まだ参入されたのは数年ですけれど、もう莫大なデータベースを持っているんですね。

そういうことでデータベースを作ろうじゃないかという試みは日本の農業でもいくつか出てきています。が、残念なことにと言うとちょっと言葉があれですけれど、今の日本の農業でできているのは非常に先進的な方々でもそこまでなんですね。さっきも申しあげたように、それだけではやっぱり上手くいかない。データベースを作るだけでも意味はあると思いますよ。でも、それだけで生産性が飛躍的に上がるかというと、やっぱりそうやって得られたデータベースをどう実際の生産現場にフィードバックするかということまで考えていかなければならない。そのためにはオランダでやっているもう一つの制御というところにデータベースをうつしていくことが大事であります。私どもがIT融合と言い、IT利活用と言うのには、できればそこまでをパッケージにしたシステムを考えられないかなぁという風に思っています。データベースを作れば「おお、すごいね」と言われる日本の農業の中で、ややそこまで行くのは野心的かなぁという気もしますけれども逆にそこまでいかないと多分、日本の農業というのはなかなかもう一歩上のステージに上がっていけないのではないかという気もしておりまして、先ほど申し上げたフォーラムを立ち上げて、そういう意欲と能力のある方々を募ってですね、是非、そういったIT融合で農業とITをかませることによって1つ大きなブレイクスルーを目指すための枠組みを作って、それを願わくばシステムの形に1つまとめてですね、それをもとに例えば日本の農業者が海外展開をするというようなところまでつなげられないかということを考えておりまして、現在、そういった目から見てどういう方々にお集まりいただいて、議論していただいたらそういった最終的な姿までいけるかなぁということを考えてフォーラムの設立の準備をしているところでございます。恐らくそこに入っていただく方はITベンチャーの方、農業者の方、これが主力だと思いますけど、それ以外に流通の人はどう考えるか、あるいは食品加工業の方はどう考えるのか。ビニールハウス栽培の方が圧倒的に馴染むものですから、そういうことで言うとハードウェアを作っておられる方はどう考えるのか、そういった人たちの知恵を広くいただきながら日本の農業のITを使った生産性向上に向かってやっていけないかと考えております。

IT分野のベンチャービジネスって圧倒的に日本は弱い。いろんなビジネスが出てきているわけでありますけれども日本発って、どうですかね、ほとんどアメリカです。それはやはりアメリカがベンチャー企業を次々と生み出していく土壌がある、環境があるからだと思います。ちょっと日本のベンチャービジネスの育成策、振興策というのはここ数年間、有効的なタマがなくてですね、沈滞しているのですけれども、もう1回ITという切り口からですねベンチャービジネスをどう興そうかということに、もう1回てこ入れしてみたい。いずれにしましてもITの利活用ということを通じてやや沈滞している部分も含めて日本の産業に活を入れたいと思いますので、活を入れるツールとしてITを使い回して新しいビジネスモデルを生んでいきたい。それが可能になるような横断的な環境整備もしっかりやっていく。こういうことを当面の経済産業省のミッションとしてきっちりやっていきたいと思います。基本的には民間企業の方々の活躍がなければ何一つ前に進みませんので、是非、皆さんのお力を頂いてですね、前に進んでいきたいと思います。(IPAフォーラム2011より)

【高橋淳】たかはしじゅん。昭和63年、東京大学法学部卒業、同年通商産業省に入省。平成18年経済産業政策局経済社会政策室長、平成22年商務情報政策局消費経済政策課長等を経て、平成23年商務情報政策局情報処理振興課長、現在に至る。