人類最速のウサイン・ボルト選手の“引退延期” での心配事



 英紙ディリー・メールは2月14日、陸上男子100㍍の世界記録保持者=ウサイン・ボルト(ジャマイカ)のインタビューを掲載した。その中でボルト選手は、「2016年リオデジャネイロ五輪での引退が『当初の予定』であったが、スポンサーから要望があり、もう1年やることにした」と語った。そのため、ボルト選手の引退は、翌17年開催の世界選手権になった。陸上競技が大好きな我が輩としては、ちょっと心配な状況になってきた。
 話は少し横道に逸れるが、実は現在、国際陸連(IAAF)はロシアでドーピング違反が大量に発覚して、大変な状況になっている。09年から導入された血液データを蓄積した「生体パスポート」の異常値で、資格停止処分を受けた37選手のうちロシア選手が23人で、そのうち競歩選手が多くを占めている。該当する五輪メダリストを紹介すると、
・北京五輪男子20㎞金メダリスト=ワレリー・ボルチン
・北京五輪女子20㎞金メダリスト=オルガ・カニスキナ
・ロンドン五輪男子50㎞金メダリスト=セルゲイ・キルデャプキン
・ロンドン五輪女子20㎞競歩金メダリスト=エレナ・ラシュマノワ
・ロンドン五輪女子3000㍍障害金メダリスト=ユリア・ザリパワ
・ロンドン五輪女子七種競技銅メダリスト=タチアナ・チェルノワ
である。以上の選手は、メダルをはく奪される可能性があるとのことだ。IAAFのディアク会長も「陸上界の危機」と認め、懸念を表明している。
 そもそもの始まりは、ドイツのテレビ局が昨年12月3日に放送したドキュメンタリー番組で、ロシアの多くの選手がドーピングに手を染めている実態が暴露されたことにある。その後、IAAFは倫理委員会が調査、世界反ドーピング機関(WADA)も今年中に第三者委員会による調査報告書をまとめる事態に発展した。
 そのほかにも、色々と“疑惑選手”がいる。今年2月1日に開催された国際陸上大会で、38歳のキム・コリンズ(セントキッッ)が、男子60㍍で6秒48の自己新、今期世界最高をマークして優勝した。コリンズ選手は、2003年パリ世界選手権100㍍金メダリストで、優勝後に「私には6人の子供がいる」と述べている。つまり、生活のために38歳になっても走っており、更に自己新や今期世界最高記録で走っている。これを“疑惑選手”と言わず、なんというのか。
 結論を急ぐと、我が輩が非常に心配しているのは、ボルト選手が“引退延期”したことで、ドーピングに手を染めないかということである。野球やサッカーなどの団体競技では、20年以上のプレーすることは可能であるが、陸上競技では無理がある。陸上競技は、肉体の限界に挑戦する競技であり、野球やサッカーのように、肉体の衰えを技術でカバーすることは出来ない。陸上競技の世界では、トップ選手が第一線で活躍出来るのは、せいぜい10年前後で、特に短距離選手の場合には5年前後と短い。
 陸上競技の一流選手の場合、全盛期には年収1億円以上を得ることが可能で、その事で走力を維持するためにドーピングに手を染める選手が多い。ボルト選手の場合、米国の経済誌「フォーブス」が推定した年収は2420万ドル(2013年)である。だから、心配しているのだ。
 ボルト選手は、明らかにピークを過ぎており、だらだらと“カネ”のために陸上競技界に籍を置いてほしくない。だが、長年のメイン・スポンサーであるスポーツ用具メーカー「プーマ」(年間900万ドルで契約)が、経営難に陥っていることで、ボルト選手自身が引退を遅らした可能性がある。
 ボルト選手の“記録”や“記憶”は、陸上競技の素晴らしさを伝えた“人類の宝”である。その宝を失いたくない。もしも、将来ドーピングに手を染めることになったら、まさに“陸上競技の崩壊”に繋がる。だから、ボルト選手は、きっぱりとリオデジャネイロ五輪を最後に引退して欲しいのだ。