YouTube動画再生回数に踊る自治体―AKBの正体


朝日新聞デジタルは「AKB恋チュン動画、役所も企業もノリノリなぜ」との記事を2013年11月に掲載している。同記事によると、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」の曲に合わせて職場で踊る動画がインターネットで大人気。企業ばかりかお堅いイメージの自治体も次々参戦しているという。一体何が起きているのか?

YouTube動画再生回数に神奈川県の黒岩祐治知事(中央)はご満悦=恋するフォーチュンクッキー 神奈川県 Ver. より

YouTube動画再生回数に神奈川県の黒岩知事(中央)もご満悦とか=恋するフォーチュンクッキー 神奈川県 Ver. より

「名前は公表しないで欲しい」

朝日新聞デジタルの記事によると、神奈川県がつくった観光PR用の動画は、2013年10月に動画サイト「YouTube」の「AKB48公式チャンネル」で公開された。2日間で100万回の再生回数を記録し、2013年11月5日時点で230万回を突破。県と県観光協会がかけた費用は43万6000円。「これほど大ブレークするとは思わなかった。少ない投資で大きな効果が出た」と元ニュースキャスターの黒岩祐治知事は手放しで喜んでいるという。同記事によると、自治体の職員が踊る動画の「元祖」は佐賀県庁の職員らによるバージョン。古川康知事ら幹部も踊り公開されると大ヒット。古川知事の発案で県職員ら約1000人が参加したという。

朝日記事によれば、佐賀バージョンは佐賀県知事自らが県職員の出演を発案したとのことだが、佐賀県に電話で聞いてみたところ、対応した担当職員は次のように話した。「動画を作ることは私が発案しました。恋するフォーチュンクッキーの動画は最初、ファンバージョンとスタッフバージョンの動画がAKB公式チャンネルに公開されていて、そこに企業のサマンサタバサのバージョンが加わったので、佐賀県でもできるのではないかと思いAKBの運営会社のAKSに申し入れをしたのです」。セックススキャンダルが絶えず、何かと批判の多いグループの動画を地方行政で大々的に取り上げるとは、いち県職員の発想としてはかなり大胆だ。そこにはAKBに対する思いがあるのだろうと思い、「AKBファンなのですか?」と聞くと、「いや、違います」とあっさり否定されてしまった。では、なぜAKB恋チュン動画を発案したのか?その意図を聞くと「県の取り組みを広報する手段」だという。この職員によると、制作費のほとんどは編集にかかった費用で約50万円。佐賀県のAKB恋チュン動画は再生回数200万回を達成し、全国版のテレビにも6回取り上げられて佐賀県の取り組みをPRするのに大いに役に立ったという。

神奈川県の場合はどうか?朝日記事は、神奈川県が動画を制作した経緯について「企画会社が9月末、県に提案」とだけしか書かれていない。そこで神奈川県知事室政策推進室に問い合わせてみたところ、「相手方(企画会社)より(名前を)公表しないで欲しいと言われている」と怪しげな返事がかえってきた。そこで、インターネットに情報が出ていないか探してみると、すでに「HUNTER」というニュースサイトが自治体の恋チュン動画の制作過程を示す公文書を情報公開請求し、その結果を「『恋するフォーチュンクッキー』自治体版動画の背景」として記事にしていることがわかった。同記事によれば、神奈川県に企画を持ち込んだのは、リエゾンラボという「会社」だという。そして、同記事では、佐賀県の県職員がAKB恋チュン動画の制作を薦めるメールを他県の職員に送っていたことをつきとめていた。

ニュースサイト「HUNTER」が掲載した佐賀県職員のメール

ニュースサイト「HUNTER」が掲載した佐賀県職員のメール

9県知事会へのメール

同サイトが公開している佐賀県職員が送付したメールの画像には「9県知事会ご担当の皆様にお願いです」として次のように記されている。「AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』を企業、団体で踊りAKB公式YouTubeでアップするという動きがはやっています」「ついては、皆さんの県でも、恋するフォーチュンクッキーをおどりませんか?」「佐賀県にあるリエゾンラボという会社が、画像編集、AKBとの交渉などを引き受けてくれます」。鳥取県のホームページによれば、9県知事会とは、志を共にする若手知事が連携し、国等に積極的に政策提言を行うことを目的に平成19年5月に立ち上げたもので、メンバーは村井嘉浩・宮城県知事、阿部守一・長野県知事、鈴木英敬・三重県知事、平井伸一・鳥取県知事、湯﨑英彦・広島県知事、飯泉嘉門・徳島県知事、尾﨑正道・高知県知事、古川康・佐賀県知事、河野俊嗣・宮崎県知事。佐賀県職員は、恋チュン動画の制作を他県に薦め、その制作やAKBとの交渉はリエゾンラボが引き受けるとの「営業メール」を、県知事会の担当職員に送っていたものとみられる。メールには「メールを各県に送付することにつきましては、古川知事の了承を得ております」との一文があり、恋チュン動画の制作を薦めることは佐賀県知事のお墨付きであると明らかにしている。佐賀県の担当者は動画の制作は職員が発案したものだとしているが、佐賀県知事自らが他県に動画制作を薦める営業活動ともとらえかねられないメールにお墨付きを与えている事実を見れば、動画制作に知事自身が深く関与し、その背景として古川知事と業者との何かしらの関係があるのではないかとの想像は難くない。

ではリエゾンラボとはどのような「会社」なのか?佐賀県が協賛するソーシャル・メディア・シンポジウムに協力社として名前が出ており、代表を名乗る人物のツイッターには九州インターネット広告協会が作成したAKB恋チュン動画に出演したことが記されている。また、東京のマーケティングコンサルタント企業とも関係があるようだ。ネット上では、市図書館の運営をレンタルビデオ大手の「TSUTAYA」を経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に委託した佐賀県武雄市の事業との関係もささやかれている。佐賀県からのメールで恋チュン動画を制作したとの「HUNTER」の記事を確認すべく、鳥取県に問い合わせをすると、担当者はあっさりメールについて認めた。そして「見れば鳥取に行きたくなるとのコンセプトで19市町村でロケをしました。県職員がメインの動画ではありません。鳥取県は全国に先駆けて手話言語条例を制定しており、そうした県の取り組みを広くアピールする意味もあります」と話した。鳥取県の担当者の説明によれば、動画制作にかかった費用は120万円で、その多くは編集費だという。そして、編集業務を担ったのは契約企業ではなくKRKだという。KRKは神奈川県のAKB恋チュン動画においても編集業務を行っているようだ。KRKとは、AKBメンバーとの不倫報道で名が知られたAKBの運営会社「AKS」の社長を務める窪田康志氏が経営するKRKプロデュース株式会社だろう。同社ホームページによれば、同社は映像コンテンツの企画製作などの業務を行っている。つまり、AKB恋チュン動画とは、インターネットメディアを利用したPR戦略として広告会社などが企業や地方行政、政治家らに売り込み、AKB側は編集費や制作費、公認費などで利益を得るというAKBサイドと広告会社がタイアップして仕掛けているインターネット絡みのビジネスとみるべきではないか?

公認費用だけで100万円?

実際、動画を制作した複数の県の担当者からAKBやその楽曲の魅力が語られることはなかった。担当者らが揃って口にするのはYouTubeでの再生回数であり、プロモーションとして効果が高いという広告会社の受け売りのような説明である。そして、再生回数という成果をあげるためには恋チュン動画を制作するだけでは意味がなく、AKB側の公認を得てその動画をAKB48公式チャンネルに出す必要があるという。しかし、自治体の制作する動画とは、そもそもYouTubeにおいて再生回数を競うような類のものなのだろうか?しかも、再生回数がのびるとの理由で、スキャンダルが絶えない団体のチャンネルに公費まで使って乗せる意味があるのか?そのような動画チャンネルにおいて著しい再生回数が得られたとして地方自治や観光行政にどの程度の効果が得られるのか?こうした検討も十分に行われないまま広告会社などの説明を真に受けて、あるいは行政トップを取り込んだ営業の成果として動画は制作されているようにも見える。

動画の制作にかかった費用について、神奈川県は県観光協会との折半で県負担分は20万6000円であるとし、佐賀県は50万円、鳥取県は120万円としている。これら費用は、編集費やダンスの振付師のギャラ、交通費などだという。ところで、佐賀、神奈川、鳥取に次いで動画を制作した富山県の場合、富山フィルムコミッションの職員が動画を制作したため編集費用は一切かからなかったという。しかし、制作費はかからなかったが、AKB側の公認をとるための費用として100万円の費用がかかったというのだ。佐賀、神奈川、鳥取も公認をとっているが、公認費用の話しは出ていない。富山だけが特別なのか?富山県の観光課職員は、「他の県でも公認をとるための費用はかかっているはず」としており、もし、そうだとすると、他県は公認をとるためにかけた費用を明らかにしていないことになる。

一般にファン心理から芸能人のダンスを真似た動画をYouTubeなどで公開することは広く行われていることであり、そうしたYouTube動画が人気を呼んで多くの再生回数を記録し芸能ム―ブメントにまで発展するケースが、国内においても起きているわけだが、恋チュン動画の場合はそのような芸能ム―ブメントとは異なる、むしろインターネットビジネスととらえるべきだろう。役所も企業もノリノリなぜ?それは、YouTube動画の再生回数をPR戦略として売り込む広告会社とAKBサイドの思惑に乗ってまさに踊らされているから-というのは言い過ぎか?