明治維新を否定する本がなぜ売れる


1ヶ月前、読売新聞の下段全面に、「明治維新を否定し、徳川体制の改革によって新しい国家創造が可能であった」という本の広告が掲載された。そこで、面白そうなので書名「明治維新という過ちー日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」(著者=原田伊織)を購入した。昨年1月に第1刷発行で、今年2月には第20刷発行であるので、相当売れているようだ。

それでは、参考になる部分を抜き出したので、原文のまま紹介したい。

○坂本龍馬という男は長崎・グラバー商会の“営業マン”的な存在であったようだ。…グラバー商会とは、清国でアヘン戦争を推進して中国侵略を展開した中心勢力ジャーディン・マセソン社の長崎(日本)代理店である。…つまり、薩摩小松帯刀、長州桂小五郎が重視したのはグラバー商会であって、グラバー商会の利益を図る龍馬が「薩長同盟」に立ち会うようになったのは極めて自然な経緯ではなかったか。…いずれにしても、坂本龍馬とは、日本侵略を企図していた国の手先・グラバー商会の、そのまた手先であったということだ。

○吉田松陰の外交思想というものは余り語られないが、実に稚拙なものであった。北海道を開拓し、カムチャツカからオホーツク一帯を占拠し、琉球を日本領とし、朝鮮を属国とし、満州、台湾、フィリピンを領有するべきだというのである。…恐ろしいことは、長州・薩摩の世になったその後の日本が、長州閥の支配する帝国陸軍を中核勢力として、松陰の主張した通り朝鮮半島から満州を侵略し、カムチャツカから南方に至る広大なエリアに軍事進出して国家を滅ぼしたという、紛れもない事実を私たち日本人が体験したことである。

○長州のテロリストたちが拠り所としたものは「水戸学」であり、…作家・中村彰彦氏は、水戸学を突き詰めていけばテロリズムの肯定につながると断言し、歴史学者・山内昌之氏は、その水戸のテロリズムが幕府を滅ぼし、水戸自身をも滅ぼしたと断罪するが、この水戸学精神が「昭和維新」の名のもとに昭和に入ってから再び燃え上がった。…即ち、「明治維新」とは「昭和維新」が燃え盛ったことによって翻って一般化した言葉であり、思想概念である。

○徳川斉昭(水戸藩9代藩主)を支えたのは藤田東湖である。…水戸には東湖神社なる神社があり、藤田東湖はその祭神として祀られているが、この男こそ長州テロリストのリーダー格・吉田松陰にも影響を与えた幕末テロリズムの元凶として145年を経た今こそ徹底的に糾弾されるべき存在である。

○最後の将軍がこの水戸藩出身の慶喜でなければ、長州・薩摩の「事」はあの時点で成就していなかった可能性が高いのである。…江戸幕府が、慶喜が想定したようなイギリス型公議政体を創り上げ、小栗上野介が実施しようとした郡県制を採り、これらの優秀な官僚群がそれぞれの分を果たしていけば、我が国が長州・薩摩の創った軍国主義国家ではなく、スイスや北欧諸国に類似した独自の立憲国家に変貌した可能性は十分にあり、決して空論ではないのだ。

著者・原田氏は、何度も「実質『長閥』(長州閥)に支配されて、国を滅ぼす道を歩むことになった」と述べていることから、先の大戦における“長州閥”の役割に憤り、この本を書き上げた。つまり、原田氏は“長州閥”によって日本国が滅ぼされたと考え、この怒りの矛先を“明治維新の否定”に繋げたと思うのだ。

筆者も、以前から戦没者310万人と、更に樺太及び千島列島を失ったことで、自分なりに考えてきた。特に、戦争の終わり方は最悪で、少なくともナチス・ドイツの目覚ましい戦勝に同調して対米戦争を始めた以上、ナチス・ドイツが無条件降伏した時点(5月7日)で、日本も無条件降伏するべきであった。そうであるならば、少なくとも200万人以上の人命と、樺太及び千島列島を失うこともなかった。

しかしながら、歴史を批評することは非常に難しい作業である。なぜなら、歴史とはその時代を生きていないと、なかなか理解出来ない面があるからである。それに関しては、筆者の高校時代の教諭の発言を紹介したい。日本史の授業であったが、ある生徒が戦国時代の民衆の動きについて、しつこく質問したことがあった。これに対して、教諭が「歴史とは、その時代に生きていないと本当のことはわからない。その時代を生きたことで、その時代の雰囲気や匂いを感じることが出来る」と説明した。なかなか“うんちく”のある説明と思う。

即ち、明治維新が日本の近代化のために必要不可欠の出来事であったと考えてきたが、この本の出現で多少考え方が変わった。つまり、歴史は敗者側から見れば、また違う見方が出来るし、筆者もトシと共に歴史観も多少は変わってきている。その意味で、今後もこれまでの常識を覆す本が、どんどん発売されることを期待したい。